ナウシカの深層  【風の谷のナウシカ】

U.世界の真実

 さて、いきなり物語の核心部分です。土鬼の聖都シュワに到着したナウシカは、そこで世界の真実、この世界を動かしているカラクリを知る事になります。
 その真相はと言うと、「火の七日間」で世界を焼き尽くした「巨神兵」はもちろんの事、この作品の象徴とも言える「王蟲」を初めとする巨大な昆虫群も、そして人類を苦しめ続ける 「腐海」までも、実は人間が作り出した物だったという事です。

 一体なぜそんな物騒な物を、わざわざ人為的に作り出したのでしょうか?

1.事の始まり

 ナウシカ達が誕生する遥か前の時代。今の我々からすると先の時代という事になるでしょう。人類の文明はセラミック文明に到達し、更なる繁栄の時代を迎えていました。

 しかし現代の状況を見ても分かる通り、人類は文明の発達と共に地球を破壊し続けてきました。間違いなくこれから先もそうなるでしょう。また、人類は同じ人類同士でも激しく争い、互いに傷付け合うと共に、その過程でもまた地球の環境を破壊しています。

 それがセラミック文明の時代に入って、行き着く所まで行ったのでしょう。一部の人達は、このままでは人類も地球も滅びてしまうと悟り、一つの遠大なプロジェクトを実行に移します。
 それは現在の文明を徹底的に破壊し尽し、その後に地球環境を元に戻して、また一からやり直しましょうという、言わばフレッシュスタート方式です。このプロジェクトを成功させるために3つの段階が用意されました。
 ではステップごとに詳しく見て行きましょう。

2.計画の全容

(1)STEP1 既存文明の破壊
 これは映画を見た方にも御馴染みの、巨神兵による「火の七日間」です。よくよく考えてみれば、なんで人間の生み出した巨神兵が、人間や人間の作り出した物を壊しまくったのか、詳しい説明はされていませんでした。
 しかし真相は、リスタートするために巨神兵を使役して文明を破壊する事が目的だったのです。

 そしてこの段階で注目すべき事実が発覚します。セラミック文明を生み出した人類、つまり我々の子孫に当たる人類は、この「火の七日間」で、事実上全滅しているのです。
 ではナウシカ達は何? それについては次のSTEPで。

 

(2)STEP2 大地の浄化
 さてセラミック文明をデリートした所で次の段階に移ります。それはこれまでの人類の手によってすっかり汚染されてしまった大地の浄化作業です。

 これも映画で語られている通り、「腐海」こそが汚染された大地の浄化マシーンであり、人類のばらまいた有毒物質を無害な物に変えて行くのです。そう、ナウシカとアスベルの落ちたあの場所です。あの様に長い年月をかけて大地をキレイにしていくというわけです。
 そして巨大昆虫群はこの腐海を守るためのいわば番人として作り出されました。さらに彼らは体に胞子を付けて腐海を拡大させる役割も担っています。

 さて先ほど述べたナウシカ達は何者なのかという点ですが、実はナウシカ達は旧人類を人工的に改造した強化人間なのです。なぜ旧人類を改造したのかといえば、浄化作業中の汚染された世界でも生きて行ける様にするためです。
 確かにあの貧相なマスク一丁で猛毒の腐海を動き回れるというのは、まさしく強化を施された証と言えるでしょう。

 では大地の浄化作業が終わった後、ナウシカ達「汚染適応型人類」はどうなるのでしょうか。結論から言えば、汚染適応型人類は浄化された世界では生きて行けません。血を吐いて死んでしまいます
 何とも酷い話です。なぜなのでしょうか? それは次のステップで。

 

(3)STEP3 新たな出発
 汚染された世界が浄化され、キレイな環境が整った後、いよいよ一からやり直す再建の朝が来ます。しかしここで旧人類のようなエゴイスティックで思慮の浅い人間を大地に放てば、また以前と同じ失敗を繰り返すのは目に見えています。

 そこで計画者達は考えました。遺伝子に改良を加えた、音楽と詩を愛する穏やかで賢い新人類を投入する事にしたのです。これで地球の環境は保たれ、人類の未来も明るく、全ては万々歳というわけです。

 現在(物語中)はSTEP2の段階なので、遺伝子組み換えの新人類は『マトリックス』に出てきた人間の栽培畑よろしく、卵状態で墓所に無数にぶらさがっており、清浄な世に出る日を待っています。そして時が来たら孵化するという寸法です。

 しかしここで問題となるのは、旧人類を汚染適応させただけのナウシカ達の子孫です。彼らを浄化された世界にそのまま残せば、また同じ過ちを繰り返すどころか、新人類と対立して争いが起こる可能性さえもあります。

 それではマズイという事で、汚染適応型人類は浄化された世界では生きて行けないようにプログラミングされました。血を吐いて死ぬのはそのためです。浄化された世界が到来したら汚染適応型人類はバタバタと死んで、新人類との交替が平和裏に行われる手はずとなっているのです。


 以上が人類と地球の再生計画です。そしてこれがナウシカ達の生きる世界の真実なのです。一見完璧に調和のとれたシステムにも思えます。
 この事実を知った時あなたはどう感じましたか? そして主人公であるナウシカはどう感じたのでしょう。果たして彼女の下した決断とは。