ナウシカの深層  【風の谷のナウシカ】

V.ナウシカの決断

1.怒れる青き衣

 事実を知ったナウシカは、ブチ切れて前述のシステムをぶっ壊そうとしました。ナウシカの怒りを感じた計画者は、ナウシカの暴走を止めるため、交渉材料として「汚染適応型人類も再改造すれば清浄な世界で生きて行ける」と持ちかけます。
 しかしナウシカはこれを聞き入れず、そのままシステムを破壊しました。そのため彼女のこの行動を疑問視する声もあります。

 しかし考えて見れば分かる通り、もし汚染適応型人類を再改造して、新人類と共に清浄な世界に投入すれば、前章で述べたように汚染適応型人類と新人類との間で何か問題が起こるのは火を見るよりも明らか。
 ここまで周到なシステムを構築する計画者が、そんな不安材料を残すとは考えられません。やはり先の計画者の提案は、ナウシカの怒りを逸らすためのブラフだったと見るべきでしょう。
 だからこそナウシカは、その提案を信用せずにシステムを破壊したのです。

 とは言え、ナウシカのとった行動がこの地球に与える影響は、思いのほか大きいのです。つまり最後に残るのは動物のいない清浄な世界だけ、という事態になる可能性が非常に高いからです。

2.終わる世界

 STEP2の段階でナウシカに破壊されてしまった中枢システム。現在は腐海による浄化作業がまだ進行中なので、いずれ大地は清浄な世界になるでしょう。しかしその時に投入されるべき新人類は、ナウシカが卵の段階で全て殺してしまったのでもういません。そして汚染適応型人類であるナウシカ達の子孫も、結局は血を吐いて全滅します。

 その他の旧世界にいた動物達は、新人類とは別の場所で飼育されており、清浄な世界に解き放たれる日を待っています。しかし中枢システムが破壊された事により、地上へ解放する命令を出される事が無くなってしまったため、彼らは永遠に地上へ出る事は無いでしょう。

 折角大地が浄化されたのに、その大地には人類どころか一匹の動物もいないという、何ともシュールな世界になってしまいます。結局ナウシカのとった行動は良かったのでしょうか、それともマズかったのでしょうか?

3.決断の是非

 結果だけを見れば、ナウシカが人類の未来を断ち切ってしまったようにも見えます。いや事実その通りなのですが、考え様によっては、本来の人類であった旧人類は既に滅びているとも言えます。

 ナウシカら汚染適応型人類は、旧人類に改造を施して作られたとはいえ、所詮は人工的に作られた人類です。「人間(旧人類)の身体が素から変わってしまった」と語られているように、汚染適応型人類はもはや旧人類とは全くの別物です。
 ましてや「音楽と詩を愛する穏やかで賢い」だけの新人類なんて、もう人類とは呼べないでしょう。穏やかだったり、険しかったり、その他にも複数の性質が複雑に同居してこそ人間であり、その性質ゆえに旧文明と共に滅びたのです。
 ナウシカの行動を待つまでも無く、この計画が発動した時点で「人類」はもう滅亡していたとも考えられます。

 いずれにしても地球自体にとっては、人類のいなくなった世界の方が幸せなのかも知れません。